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山口地方裁判所 昭和38年(行)1号 判決

山口県豊浦郡豊北町北宇賀下畑一、〇六九の一

原告

勝谷泰行

右訴訟代理人弁護士

古谷判治

山口県長門市

被告

長門税務署長

岡崎昌生

右指定代理人

鴨井孝之

長沢武男

久保田義明

常本一三

石田金之助

吉富正輝

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

一、原告の申立

被告が原告に対し昭和三七年五月二六日付納税告知を以て昭和三二年分贈与税として、税額を一四四、三五〇円、無申告加算税額を三六、〇〇〇円とした賦課決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の申立

主文同旨の判決。

(原告の主張)

一、原告は、昭和三二年中に、訴外北陸電力株式会社の株式一、六〇〇株を買入れ、代金合計八一七、〇〇〇円を支払つた。

しかして、右買入れ代金は、原告の手持資金では不足するので、(イ)訴外山田時夫から昭和三二年一月一〇日頃四〇〇、〇〇〇円、(ロ)訴外長井利右衛門から昭和三二年三月三〇日、三〇〇、〇〇〇円を各借入れ、(ハ)原告自身が昭和三二年中に自己の耕耘機により他家数十軒の農耕をなして得た労賃約二二〇、〇〇〇円、(ニ)原告自身の自作農により得た昭和三二年中の収入約一五〇、〇〇〇円をもつて随時これに充てたものである。

二、右のとおり、原告は右株式取得に際し、原告の父訴外勝谷極人から何の贈与も受けていないのに拘らず、被告がこれあるものとして請求の趣旨のとおりの贈与税の賦課決定をなしたのは違法である。

三、原告は右賦課決定に不服であるから被告に対し、昭和三七年六月四日再調査請求をなしたが同年九月一日棄却された。そこで同月四日広島国税局長に対しこれが審査請求をなしたが、三カ月を経過しても未だにその決定を得られないので本訴に及んだ。

四、原告が別紙第一表(以下単に第一、二、三表というときは別紙第一、二、三表を指す)1ないし10記載の各日時に同表贈与物件欄記載の各株式を取得したこと、当時の各株式の単価が同表贈与金額欄記載のとおりであること及び原告が被告主張のとおり贈与税の申告書を提出しなかつたことは認めるが、右各株式はすべて原告が自ら調達した資金により取得したものであり、従つて原告には何ら贈与税の申告をなすべき義務は存しない。

(被告の主張)

一、請求の原因に対する答弁

原告主張の請求原因事実中、昭和三二年中に原告が北陸電力株式会社の株式一、六〇〇株を代金八一七、〇〇〇円で取得したこと、被告が請求の趣旨のとおり贈与税賦課決定をしたこと、これにつき原告主張のように再調査の請求、棄却決定、審査請求がなされ、三ケ月を経過するもなお審査の決定のなされていないことは認めるが、その余の事実はすべて争う。

原告は、昭和三二年当時二二才の若年であつて、不動産その他の資産は全然なく、専ら生計を共にする父極人の扶養を受け、同人の農業の手伝をなすほか定職もなかつたものである。従つて、仮りに原告主張の山田時夫らからの金員借入れの事実があつたとしても、それは父極人の借入れであり、又原告主張の耕耘機による稼働賃金収入及び農業収入はすべて父極人の収入にほかならない。

二、贈与の事実

原告は第一表記載のとおり、昭和三二年中父極人から株式及び株式購入資金の贈与を受けている。その詳細は以下に述べるとおりである。

(一)  同表1ないし6記載の株式贈与

父極人は、昭和三一年一〇月頃同人所有の立木を北九州市若松区修多羅九七〇番地の訴外山本合資会社に七八〇、〇〇〇円で売却し、右代金につき昭和三一年一〇月四日に一五六、〇〇〇円、同年一二月二一日に六二四、〇〇〇円を受取り、右立木代金の一部を訴外大和証券株式会社(以下大和証券という)北九州支店に預け、その預け金をもつて、第二表のとおり株式を購入し、同証券会社に保護預りを依頼していた。しかして、同人は第一表1ないし6記載の日に原告に対し同表贈与物件欄記載の各株式を贈与し、それぞれ原告名義にその名義書換を行つた。

(二)  第一表7の株式取得資金の贈与

原告は、昭和三二年九月二四日大和証券北九州支店を通じて、北陸電力株式会社の株式七〇〇株を三五一、八二〇円で購入しているが、その代金の支払は前記(一)で述べた父極人の同支店への預け金のうち三二、五二〇円をもつて同日支払に充当しているほか、父極人が昭和三二年八月頃同人所有の立木を下関市安岡新町の訴外篠原材木店に一、六〇〇、〇〇〇円以上で売却した代金の一部として同年九月二六日受取つた金額三二〇、〇〇〇円の小切手をもつて同月二七日に支払つているから、原告は同月二六日同人から右株式取得に要した資金の贈与を受けているのである。

(三)  第一表8・9の株式贈与

父極人は、前記(二)で述べた篠原材木店に対する立木代金のうち昭和三二年一〇月五日に六八〇、〇〇〇円、同年一一月二九日に六〇〇、〇〇〇円を小切手で受取り、右小切手を大和証券下関支店に預け、その預け金の一部をもつて第三表のとおり株式を購入し、同証券会社に保護預りを依頼していたが、第一表89記載の日に原告に対し同表贈与物件欄記載の各株式を贈与し、それぞれ原告名義にその名義書換を行つた。

(四)  第一表10の増資払込資金の贈与

原告は、昭和三二年一二月四日、大和証券下関支店を通じて北陸電力株式会社の新株四〇〇株一八〇、〇〇〇円の増資払込みを行い、新株式を取得しているが、右増資払込金は、父極人が右証券会社に預けていた前記(三)で述べた預け金から払い込んだものであるから、同日父極人から右株式の取得資金の贈与を受けたものである。

三、贈与税等賦課決定の経緯

(一)  贈与税額について。

前段に述べたとおり、原告は昭和三二年中に合計一、四七七、四二〇円の株式及び株式取得資金の贈与を受けているが、本件課税処分は、決定前における調査で判明していた北陸電力株式会社の株式一、六〇〇株の取得代金八一七、〇〇〇円を原告が父極人から贈与されたものと認めて、右金額を課税価格(相続税法二一条の二)とし、これから基礎控除額一〇〇、〇〇〇円(同法二一条の四)を控除した七一七、四〇〇円に贈与税の税率(同法二一条の五)を適用して贈与税額一四四、三五〇円を算出し、相続税法三五条二項の規定により決定したものである。

(二)  加算税について。

被告は、原告が前叙のとおり贈与を受けているにも拘らず、相続税法二八条に規定する申告書をその提出期限である昭和三三年二月末日から三カ月以上経過するも提出しないので、同法五三条二項により、税額一四四、〇〇〇円に一〇〇分二五の税率を乗じて算出した三六、〇〇〇円無申告加算税として決定した。

(証拠)

(一)  原告

甲第一号証の一、二、第二ないし第一二号証提出。

証人山田時夫、同長井勝美の各証言、原告本人尋問の結果援用。

乙第一五ないし第二二号証、同第二四ないし第二六号証の成立不知。その余の乙号各証の成立認。

(二)  被告

乙第一、第二号証、第三号証の一ないし四、第四ないし第七号証、第八号証の一、二、第九ないし第二七号証、第二八第証の一ないし五提出。

証人伊勢本勉、同作永寿男、同石田金之助、同本田武の各証言援用。

甲第二、三号証、同第一一、一二号証の成立不知。その余の甲号各証の成立認。

理由

一、被告が昭和三七年五月二六日付で原告主張のような贈与税および加算税の賦課決定をしたこと、原告は右賦課決定に不服があるとして、同年六月四日被告に対し再調査請求をしたが、同年九月一日棄却されたので、同月四日広島国税局長に対し、これが審査請求をしたが、三カ月を経過するも、なおこれに対する審査の決定がなされなかつたことは当事者間に争いがない。

二、原告が第一表1ないし10の、贈与物件欄記載の各株式を取得したこと及びその当時の右各株式の単価が同表贈与金額欄記載のとおりであることは、当事者間に争いがないが、被告は原告が右各株式またはその取得資金を父極人から贈与されたものであると主張しているのに対し、原告は右各株式を自ら調達した賃金によつて購入したものであるとしてこれを争つているので以下この点について判断する。

(一)  成立に争いがない乙第四号証、同第九号証、証人作永寿男の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる同第一六、一七号証、証人石田金之助の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる同第一五号証、同第一八号証、同第二〇号証、同第二四ないし第二六号証によれば原告の父極人は昭和三一年秋同人所有の立木を山本合資会社に七八〇、〇〇〇円で売却し、同年一〇月四日一五六、〇〇〇円同年一二月二一日六二四、〇〇〇円を受取つたこと、同月二二日このうち現金三〇〇、〇〇〇円、翌昭和三二年一月九日二〇〇、〇〇〇円同月二六日五六、六〇〇円を大和証券北九州支店に預け、その預け金をもつて第二表記載の各株式を購入し、同支店にこれが保護預りを依頼したこと、その後右各株式と同じ銘柄、数量の株式が第一表1ないし6記載の日時にそれぞれ極人名義から原告名義に書換えられていることが認められる。原告は父極人が山本合資会社に売却したのは主として弟の宮下為友所有の山林であつたように供述し、甲第六ないし第八号証、同第一〇号証によつて、極人から宮下に対する山林売買の事実が認められるようであるが、右乙第四号証によつて、山本合資会社に木材を売却したのは極人であつて同人に木材引取税を課せられている事実が認められるから前記認定に反する原告本人尋問の結果は措信できない。

(二)  前出乙第四号証、同第一八号証、成立に争いがない同第一〇、一一号証、証人石田金之助の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる乙第一九号証、同第二一、二二号証によれば、原告は第一表7記載のように昭和三二年九月二四日右大和証券北九州支店に委託して北陸電力株式会社の同株式七〇〇株を取得したが、その代金三五一、八二〇円のうち三二、五二〇円は同月二六日父極人が同支店に預けた金五〇、〇〇〇円のうちから支払われ、その余の三一九、三〇〇円は同支店が立替えておき、同月二七日に至り父極人が同年八月ごろ同人所有の立木を篠原材木店こと篠原泉に一、六〇〇、〇〇〇円またはそれ以上に売却した立木代金の一部支払として同人から受領した株式会社山口銀行安岡支店宛の同日振出の金額三二〇、〇〇〇円の小切手で支払われていることが認められる。

(三)  前出乙第二二号証、同第二四、二五号証および成立に争いがない同第一二号証、同第一四号証並びに証人石田金之助の証言によれば、原告の父極人は右篠原泉に対する立木売却代金の一部の支払として同人から右小切手のほか同じく株式会社山口銀行安岡支店宛の(1)昭和三二年一〇月五日振出の金額六八〇、〇〇〇円及び(2)同年一一月二九日振出の金額六〇〇、〇〇〇円の小切手各一通を受領したが、同年一〇月八日(1)の、同年一一月二九日(2)の小切手をそれぞれ大和証券下関支店に預け、その預け金の一部をもつて第三表記載の各株式を購入したこと、その後右各株式と同じ銘柄、数量の株式がそれぞれ第一表8及び9記載の日時に同人名義から原告名義に書換えられていることが認められる。

(四)  前出乙第一四号証、成立に争いがない同第一三号証、証人石田金之助の証言によれば、原告は第一表10記載のように昭和三二年一二月四日北陸電力株式会社の増資新株四〇〇株を取得したが、その増資払込金一八〇、〇〇〇円は同月一一日右(三)認定の極人の大和証券下関支店に対する預け金の中から支払われたものであることが認められる。

右(一)ないし(四)認定の各事実からすれば原告の父極人は、原告に対し、第一表1ないし6記載の各日時に第二表記載の各株式を、第一表8及び9記載の各日時に第三表記載の各株式をそれぞれ贈与し、また北陸電力株式会社の株式取得資金として第一表7記載の日時頃金三五一、八二〇円を、同年一二月一一日同会社増資新株取得のための払込資金として金一八〇、〇〇〇円をそれぞれ贈与したものと認むべきである。

尤も証人山田時夫、同長井勝美の各証言によると、山田時夫及び長井利右衛門は昭和三二年頃原告に対し株式若しくは山林を担保として相当額の金員を貸付けたとのことであり、原告本人はこれらの金員と耕耘機により他家の賃耕をして得た労賃などをあわせて株式を購入したと供述しているが、前出乙第四号証、成立に争いがない同第一、二号証、同第三号証の一ないし四、同第五ないし第七号証、同第八号証の一、二証人伊勢本勉及び同石田金之助の各証言に徴すると、その頃原告自身には殆んど資力も信用もなく、かつ山田も長井も被告側の当初の調査に対し金員を貸与したことはない旨を答えているふしが窺われるのであるから、右山田時夫、長井勝美の各証言及び原告本人尋問の結果はたやすく措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三、そうだとすれば、原告は昭和三二年中に父極人から第一表贈与金額欄記載のとおり計一、四七七、四二〇円相当の株式および株式取得代金の贈与を受けたものであり、かつ原告が昭和三二年分の贈与税申告書をその提出期限である昭和三三年二月末日までに提出しなかつたことは当事者間に争いがなく、右期限から本件課税処分の日までの期間が三カ月を超えることは明白であるから、右贈与金額のうち八一七、四〇〇円を課税価格として、これから基礎控除額一〇〇、〇〇〇円を控除し、これに所定の贈与税率を適用して算出した贈与税額一四四、三五〇円、さらに相続税法第五三条第二項、第四項、第五一条第五項によりこのうち一四四、〇〇〇円に一〇〇分の二五の税率を乗じて算出した無申告加算税三六、〇〇〇円を賦課決定した本件課税処分は原告に課せらるべき正当な税額の範囲内のものであつて、何らの違法も存しないものといわなければならない。

よつて、原告の本訴請求を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡村旦 裁判官 鈴木醇一 裁判官 竹重誠夫)

第一表

〈省略〉

第二表

〈省略〉

第三表

〈省略〉

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